私は、訪問看護実践をしていたのですが、経験を重ねてもターミナルケアは難しく、どうしたら、よりよい看護ができるのだろうかと思いながら、大学院に進みました。大学院では、看護師の経験知、実践のコツのようなものを知るために、訪問看護師にインタビューしました。その結果から、自宅で高齢者を看取る家族を支援するときに大切にしている信念(看護観)をまとめました。経験のある看護師は、高齢者の長い暮らしの終わりを家族とともに支え、「家族により近づく親近感と訪問看護師としてあることの調和をとる」ことを大切にしていました1)。この時、看護師の立つ位置が大切になると教えられました。
さらに研究活動を行う中で、グリーフケアに取り組んでいる訪問看護ステーションがあることを知りました。当時、グリーフケアの文献は少なく、グリーフケアについても、あまり知られていませんでした。このような経緯から、訪問看護で行われるグリーフケアについての研究を始めました。
Step1 概念の明確化:家族介護者に対して訪問看護師が行うグリーフケアとアウトカム(効果や影響)の検討2)
家族介護者に対して訪問看護師が行うグリーフケアについて質問紙調査を行いました。その結果から、訪問看護師が行うグリーフケアは、「療養生活から終末期、臨終時、看取り後を通して、継続的に関わることができる」という特徴があることがわかりました。看護師は、看取りの経験を家族と共有し、家族との関係性の中で、共感性の高い心理的ケアや適切な社会支援を提供できる可能性があります。
グリーフケアのアウトカムとしては、家族介護者への効果はもちろん、看護師にとっても、自身の学びの機会となっていることが考えられました。
Step2 普及・啓発活動の取り組み:訪問看護師へのグリーフケア教育プログラム3)
Step1で得られた知見をまとめ、訪問看護師へのグリーフケア教育プログラムを実施しました。講義やグループワークを行いました。教育プログラム前後のアンケート結果から、グリーフケアの理解、多職種協同の意識、実践の改善といった質問項目の得点が、統計的に有意に上昇していました。講義の際、参加者が職場に帰っても活用できるようにとグリーフケアのリーフレットを配布しました。教育プログラム終了後、このリーフレットは、関係機関に配布する等、普及・啓発活動に取り組みました。
ここでは、訪問看護におけるグリーフケアを取り上げましたが、近年、グリーフケアの重要性は、様々な状況、様々な場で着目されてきています。看護学生の教科書にも掲載されるようになってきました。
看護師が行う死別前後のグリーフケアは、予防レベルの介入として重要です。また、家族・友人や近隣・コミュニティ等によるグリーフケアも大切です。死別を支えあう地域コミュニティが形成されることで、お互いを思いやるまちになり、さらには人々の健康の維持・増進、病気の予防などにもつながっていくのではないかと考えています。
グリーフケア 地域看護職向けリーフレット *ダウンロードして勉強会などにご活用ください。
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1)小野若菜子,麻原きよみ(2007):在宅高齢者を看取る家族を支援した訪問看護師の看護観,日本看護科学会誌,27(2),34-42.
https://doi.org/10.5630/jans.27.2_34
2)小野若菜子(2011):家族介護者に対して訪問看護師が行うグリーフケアとアウトカムの構成概念の検討,日本看護科学会誌,31(1),25-35.
https://doi.org/10.5630/jans.31.1_25
3)Wakanako Ono(2016):Development of Grief Care Education Program for Visiting Nurses in Japan,JOURNAL OF HOSPICE & PALLIATIVE NURSING,18(3),233-241.
https://doi.org/10.1097/NJH.0000000000000238
4)小野若菜子(2017):地域に根差した看護職が行なうグリーフケア 「死別を考える」思いやりのあるまちづくりをめざして,訪問看護と介護,22(1),14-19.
https://doi.org/10.11477/mf.1688200609
5)小野若菜子(2021):【続・あらためて死について考える1-死は誰のものか?】二人称の死 地域看護の視点からみた家族へのグリーフケア,保健の科学,63(2),102-106.