「慢性の痛みの語り」のデータベース構築

がん看護学・緩和ケア/慢性期看護学分野 高橋 奈津子

「慢性の痛みの語り」のデータベース構築
2021.12.21

研究のきっかけ

 「慢性の痛み」は、痛みの原因となる病気やけがが、通常なら治ると思われる期間を超えて持続する痛みをさし、日本では2000万人余りいると推定されています。慢性の痛みは、原因が特定しがたいこと、検査所見に異常が見られないなどの理由で、精神的なもの、詐病とみなされることもあります。そのため、痛みのつらさを医療者、家族や周囲の人に理解されず、孤立しやすい状況にあります。そこで痛みとともに生きる体験を当事者、家族が共有し有用な情報が得られること、医療従事者への教育、支援への提言、一般市民への啓発のために、当事者の語りの映像・音声を用いたデータベースを構築することにしました。

研究の内容

 慢性の痛みの体験について、20代から80代まで男女計41名(女性31名・男性10名)と40代から50代の家族5名(女性4名・男性1名)にインタビューを行いました。平均年齢は51歳(±16.1)、平均疼痛期間は14.2年(±8.99)年でした。疼痛部位は全身13人、次いで、手足10人、腰・背中8人、半身3人、腹腔内3人、頭・顔2名、その他2人と多岐にわたっていました。
 語りの概要は、①慢性の痛みとは、②痛みの治療と選択、③日常生活への影響と対処、④人間関係への影響、⑤痛みと向き合う、⑥家族の思いの6つのテーマに分類できました。
なかなか治らない、痛みが強くなる、全身に広がるという慢性の痛みの特性や適切な医療機関の選択が難しいこと、鎮痛剤や睡眠薬などが徐々に増量された結果、日常生活が困難になった方もいました。周囲からの理解を得ることが難しく、学業や仕事の継続に影響し、経済的負担があることも語られています。痛みが慢性化することについては、不安や絶望と向き合う時期があり、痛みを完全になくすことをゴールにするのでなく、痛くてもやりたいことこと、できることに目をむけるという知恵を語ってくださった方もいます。
慢性の痛みとともに生きている人・家族のありのままの体験をぜひ、下記の認定NPO法人「健康と病いの語り DIPEx-Japan」のサイトでご覧ください。

慢性の痛みの語り | 健康と病いの語り (dipex-j.org)

今後に向けて

 医療者、一般市民に対する慢性の痛みの理解を深めるために、「慢性の痛みの語り」サイトを広く周知していくこと、映像による「語り」を用いて保健医療職の現任教育、学生への基礎教育に活用し、病いの慢性性についての理解を深め、コミュニケーション、緩和方法などの看護支援プログラムを開発したいと思います。また、慢性の痛みに対する集学的治療のメンバーとして、ソーシャルワーカーとの協働も視野に入れた他職種連携のあり方について、「慢性の痛みの語り」から得た知見を生かした研究に取り組んでいます。
本研究は、研究代表者 佐藤幹代(自治医科大学看護学部)「慢性の痛み語りデータベース構築と生活の再構築に関する研究」基盤研究(B)の助成をうけ、認定NPO法人DIPEx-Japanと共同し実施しました。

リーフレット

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